伝統工法
日本人の知恵が生み出した伝統工法
伝統工法と聞くと、昔の建築や神社仏閣に使われているというイメージが強いようですが、戦後西洋建築の影響を受ける以前の住宅はこの工法で建てられていました。伐り出した木の特性を活かして、木と木を組み上げて建物を構成していくことが特徴で、永く丈夫に作るためにあみだされたものです。
在来工法の歴史はまだ浅く、1891(明治24)年の濃尾地震の翌年に、西洋建築の考えを取り入れたものです。戦後の焼け野原に続々と建った粗悪な家々を喫緊に耐震化や規格化すべく、1950(昭和25)年に建築基準法が制定されたました。
柔軟さが作り出す地震に強い家
伝統工法は基本的には、地震に対して建物全体を剛構造で固める現代の工法と違い、揺れに対しその力を逃がす柔構造となります。
柱を石場と呼ばれる礎石(独立基礎)の上に立て、足元土台、貫、胴差しで通し柱を組み繋げてゆきます。地面と固定されていないところが、現代の土台を布基礎にアンカーボルトで固定する工法との大きな違いです。
揺れる電車の中で四つん這いになり、床に手足が固定されているか、いないかの違いと言えばわかりやすいでしょうか。
「頑丈な剛構造の方が良いのでは?」と思われるかもしれませんが、遊びがないため木の耐力を超える力が加わった時破壊がおきます。一方、柔構造は木の耐力、特性を考慮し適度な固めと遊びをもたせ、ダイレクトにかかる力を逃すため破壊がおきにくくなります。
変形角であらわすと、剛構造の場合1/30 の変形で倒壊に至り、柔構造の場合1/6の変形で倒壊に至ったというデータもあります。
いずれも建物の規模、形状等が違うため一概に結論付けることは出来ませんが、木を用いて建築物を建てる方法としては、今まで見た数々の現場(新築、リフォーム、解体)から考察するところ、伝統構法は最も理想的な木造建築工法だと感じております。
国産無垢材を大工が手刻みする伝統軸組工法
手刻みは変形しにくい構造をつくり出します。また、釘や接合金物を使う箇所を最小限に留めることは、錆や材質の違いによる接合部のゆるみを避け、家を長持ちさせる大きな要素のひとつとなります。
シンプルですが、手刻みで木と木をしっかり組むことで大きな構造の家をつくり上げる「伝統軸組工法」はまさに先人がつくり上げた日本の風土に合った工法なのです。
手板、墨付け、カンナかけ、ノミを使った手きざみ加工。
日本の職人の技と技術。
家一棟をつくり上げるまでには100を超える工程、100を超える技が必要
手きざみの順序を大まかに説明します。まず、棟梁が設計図をもとに家のどこにどういった木を使うかを決めるための図を起こします。材木が到着すると、それぞれの性質を見ながら使う場所を決めていきます。ベテランの目利きになると、材木の姿や切り口などから産地、土壌、育った環境、年齢、癖を見抜けます。使う場所が決まったら木の一本一本に「墨付け」をし、家の土台、柱、梁として組み上げるために刻む位置に印をつけます。次に墨付けされた箇所に「継手」や「仕口」をつくっていきます。最後に、見える部分に使う化粧材には手ガンナをかけます。これが大まかな手順です
細かい手順をすべてあげると、家一棟をつくり上げるまでには100を超える工程、つまり100を超える技が必要になってきます。
これだけの技術で作り上げた家。その強さは上棟時ですでに違いがわかります。