自分達らしいを磨く

「自分達らしいを磨く」

昨年夏、ミナペルホネンの「つづく展」を観に行って、この言葉の前でしばらく動けなくなりました。
ちょうど仕事のことで自分達がどうあるべきかをずっと考えていたときでした。ここに答えがあると思えました。

私たち夫婦が営んでいるワカバヤシ工務店は、営業マンや現場監督がいるような会社組織ではありません。現場を仕切るのは大工職人の夫一人です。そんな個人経営の工務店だからこそできることは何か、またうちができることを伝えるにはどうすればいいのかをずっと考えています。
そんなときに出会ったのがこの「自分達らしいを磨く」という言葉でした。

「自分達らしい」とは何か。
「自分達」を「ワカバヤシ工務店」に置き換えて考えてみました。

「ワカバヤシ工務店らしい」とは。
私たち夫婦が、それぞれの立場でお客様と接することではないかと考えます。

実際に工事をする大工職人と女性の立場で物事を見ている妻が、お客様の住まいの困りごとを聞かせていただきます。雨漏りのようにたちまち困っているお話のこともあれば、こんな風に暮らしたいというようなお話のこともあります。それらをお聞きして、お客様にとってどんな工事が適切かを考えご提案します。

お客様のお話を伺っていると、「職人に直接話せることとそうでないことがある」と奥様から言われることがあります。そういう時には、妻の私が奥様のお話をよく聞くようにしています。
例えば、家事をしていてストレスになっていることや、こんな風にしたらどうなるかしらというような漠然とした妄想のような話などは、男性の職人には言いにくいものです。でも女性同士なら、共感しながら話が盛り上がるということをお聞きしました。
私自身もよく妄想します。雑誌やテレビなどで素敵なお家を見たり、気に入った雑貨や家具を見つけたら「うちならどんな風になるだろう」とか「これはあそこに飾ろう」と、どんどん妄想は膨らんでいきます。それを誰かに聞いてもらいたくなるし、実際に話すことで妄想が現実味を帯びてくることもあるのです。

そういう奥様のお話を実現できるかどうか、職人に伝える役目が妻の私の仕事だと思っています。実際にその通りにできることもあれば、できないこともあります。全部は叶えられなくても「ここをこうすればこんな風になる」という代替え案をお出しすることもあります。
また、工事をすることで出てくるメリットとデメリットをできるだけ具体的にお伝えするようにしています。
お客様だけでは想像しにくい工事の方法や仕上がりを具体的にお伝えします。それをお伝えすると、「そのくらいの工事ならやってもらおう」とか「そこまでの工事は望んでいない」など、お客様ご自身が考えられます。

また、お客様のご希望の工事が、困りごとの解消に本当になるのかどうか、他に解消できる手立てはないかを考えてお伝えすることも、私たちの役目だと考えています。
その結果、工事をしない選択をされる場合もあります。それでも私たちはいいと思っています。なぜなら、本当に快適な暮らしを得るための工事を提供したいからです。

私たち夫婦ができることはそんなに多くはありません。限られた中で、夫婦二人がそれぞれの立場でお客様と真剣に向き合って、痒い所に手が届くような対応を心掛けることが「自分達らしいを磨く」ことになると信じています。

「自分達らしいことしか結局伝える力にならないからその自分達らしいを磨いていくしかない」 ミナペルホネン/皆川明(「つづく展」より)

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